こ、この、甘いにおいは…
ポプリはどこからか漂うにおいに誘われて、すーうっと、細い路地に入ってしまいました。
そこは人気も無く、薄暗く、
今までの騒がしさが嘘だったように静まった一角でした。
「このお店からだーー!」
ポプリは勢いよくそのお店に入ります。
「おっ、らっしゃい!
よう来たね〜、うちゃぁ知るひとぞ知る隠れ家スイーツ店ばい」
ソフトビニール製の恐竜店主が迎えました。
ポプリはすぐにショーケースの前に
釘付けになります。
「わーい、お菓子いっぱい!」
そこには、美味しそうなたくさんのスイーツが並べられていました。
とりわけ苺のショートケーキに惹かれます。
「ん〜? もしかして、、嬢ちゃん人間と?」
店主は言いました。
「うん、ポプリは人間!」
「おおっ、こりゃよか!
珍獣のお客さんだったとはっ!
今日は祭典の日やけん、
食べていきんしゃい!」
「いいの! やったー!」
まずは生クロームを一口。
「うーーーん、とろける〜〜〜!」
なめらかな口溶けにご満悦。
次にスポンジ部分。
「ん〜〜〜このしっとり感…」
ほどよい弾力と控えめなシロップの甘さに感激。
そしてそれらを、中層のカット苺と共に
「や、やばいっ!…」
背筋に電撃が走ります。
ポプリの意識は
甘美な桃源郷へ足を踏み入れました。
夢心地となったポプリは、
しばらく空想世界の住人となります。
「どがんしたと?」
「はうっっ!!」
ポプリは我に帰りました。
「砂糖菓子んごと 固まっとったたい」
「マスター、やばいわ…おいしすぎて、
あやうく魂を持っていかれるところだったわ」
「…そっ、そうかっ、
そりゃ よう持ちこたえてくれたっ、
持っていかれたら大変やっ!」
そして残りのケーキにとりかかります。
最後に残した苺を食べて…
「ごちそうさま!」
完食したポプリは顔をほころばせながら、紅茶をいただきます。
「マスター、
とても美味しかったわ!
お星様3つあげちゃいます」
「はっはっはー、そうやろー、
そいはおいの自信作ばい」
「そうだ、星じゃないけど、、お返しにこれあげるよ!」
ポプリは飴玉を出しました。
「なんやー、気が利くちびっこや、
こりゃ食べんばね。
じゃ一つ、ピンクのやつを」
「ふわふわチョップ味ね、ハイ!」
「…ん?、こりゃ人間界のお菓子と?」
「そうだよ!」
「ぬおぉぉぉぉ!、、
何という幸運! まさかこの年になって、
人間界のスイーツば食べれるたぁっ!」
「スイーツっていうか、、飴玉だけどね」
「じゃ、早速」
パク…
店主はその大きな口に飴玉を入れます。
「こ、こりゃぁ…!
生まれたばかりの天使の羽んごと柔らかか純白の甘さに全身ば包まれたかと思えばその直後、まるでプロレスラーの放つ逆水平チョップんごと力強か切れ味がおいの胸板ば真っ赤に染め上げちょるばい…
なるほど、真っ白と真っ赤で、足してピンクと…」
「ばりうまかーーーーーーっ!!!」
「有難う、人間のちびっこくん!
次の新作の参考にするばい」
そういって、店主はポプリの手をギュイっと握りました。
「ど、どういたしまして」
予想以上の反応に、
ポプリは少し照れ臭くなりました。
「ポプリ、こんな所にいましたか!」
そこへ、ロコタがやってきました。
「よかった、神隠しにあったかと思いましたヨ」
「あっ、コロタン!
ごめん、甘い匂いにつられて…つ、つい」
口元にクリームのついた顔を見て
やはりポプリは子供の中でも、子供寄りの子供。
いやむしろ子供のそのもだ、ロコタはそう、考えを改めました。
「ワタシも目を離さないように、
注意していたのですが、、
一体いついなくなったのですか…
忍者ですか、アナタは」
「き、気づいたらケーキの前に…」
「この辺りでもパレードは見られますが、
せっかくですからやはり予定通り時計橋まで行きマショウ!」
「うん!」
そして二人は、店主に挨拶をしお店を出て、
大通りを進んで行きました。