ゆらゆら揺れながら
気球船は上昇します。
「すごい浮いた!」
「さあ、煙たい場所からはおさらばだ
一気に上空までいくぜ!
舌噛むなよ!」
地上の光はあっという間に
視界いっぱいに広がり、
「わーい、すごいっ すごいっ!」
ポプリ達を乗せた気球船は
上昇気流に乗り、
街が一望できる高さまで昇りました。
「うわーー凄い、街が見渡せるよー!
」
「こんな光景初めてデス!」
「こう見ると我々の国も案外と小さいものですね!」
三人はのテンションは上がります。
気球船は高度を保ち、目的地である時計橋上空を目指します。
急に遅くなったと思ったら…
背後の山から、追い風がやって来ました。
「速い速いーー!」
ポプリははしゃいでいます。
気球船は加速して、どんどん進んでいきます。
「この速度ならすぐ着きそうですね、ロコタさん」
「はい、思った以上に速いデス!」
コースは安定し、
気球船は薄い雲の中を直進していきます。
しかしその追い風はすぐに横風になり、船体は大きくカーブしてしまいます。
「気球船さん、大丈夫ですか?
かなり煽られているようですが!」
「これくらいは想定内だ!
それより、正面から大きなやつが来るっ、
捕まってろぃ!」
大きな風のかたまりを乗り越え、
気球船は再び安定を取り戻しました。
「まいったぜ、今日は風が強ぇーな。
コースを外れちまった…」
気球船はボソッと言いました。
そんな中、ロコタは少しうつむいています。
「あれ、コロタンどうしたの?」
「き、気持ち悪いデス…」
「えっ、大丈夫?!」
ポプリは心配そうにロコタの背中をさすってあげました。
「ロコタさんはもしかして、メイプルテック社の製品ですか?」
「ハ、ハイ…」
「おおっ、やはり!
人間味あるロボットおもちゃに
定評がありますからね。
乗り物酔いまで再現するとは!」
「ちょっと、兵隊さん!」
まるで他人事の兵隊をポプリは少し叱りました。
「…こっ、これは失礼!」
「ヤベー、灰色雲だ!」
安定した飛行も束の間
気球船は突如発生した大きな雲に
飲み込まれてしまいました。
「キャー!」
「ひぇっ、どうしたのデスカ?!」
「これは乱気流ですね、みなさんしっかり捕まって下さい!」
ダメだ、制御不能だ!
これはシャレにならねーっ!
「落ちちゃうーーーー!」
ポプリが叫びます。
(このままじゃ沈む!
… …ちっ、しゃーねー)
「おい聞け!足元のお宝を全部捨てろっ!
…軽くしてこの雲を切り抜けてやる!」
気球船は三人に大声で伝えます。
「い、いいのですか!
これだけ集めるのは相当苦労されたはず!」
心配してためらう兵隊の横で、
二人はポイポイと手際よく捨てていきます。
「よし、軽くなったぜーーー!」
灰色雲の外は、嘘のように静かな空。
気球船は窮地から脱出しました。
「ふーーーー」
「はーーっ、助かったぁ」
みなほっとして胸をなで下ろします。
「しかし、高価なものをたくさん捨ててしまいましたな…」
兵隊は労いの趣(おもむき)で気球船の方を見上げます。
「フッ、また手に入れりゃーいいさ…
目的地はもう目の前だ、 急ぐぜ!」
気球船はラストスパートに入ります。
「視界良好、
風もちょうどいい塩梅(あんばい)だ!」
気球船の調子も絶好調のようです。
「みなさん、
時計橋が見えてきましたよ!」
あっという間にトッテチッテタウンの中心街が見えてきました。
どうやら灰色雲の中で死闘している間に目的地の近くまで来ていたようでした。
ポプリも声をあげます。
「やったー!帰ってきたー!」
「空から見下ろすこの街は、これまた別格…
上からだとこんな風に見えるのデスネ!
目からウロコデス」
「うん、おもちゃみたいだね! おもちゃだけど」
はじめて見る景色にロコタの乗り物酔いもどこかへ行ってしまったようです。
気球船は残った息を吐き、
高度をどんどん
下げていきます。
「着いたーーー!」
こうして、ヒヤヒヤした空の旅も
なんとか無事に終え、三時少し前に到着することが出来ました。
「いやー、大事に至らず到着できて本当よかったです!
一時はどうなることかと思いましたが…」
兵隊も嬉しさと安堵が声のトーンに現れていました。
「まっ、空を舐めちゃいけねー、ってことよ。
でも間に合ったんだ、文句はねーだろ」
元のサイズに戻った気球船が答えます。
「気球さん、 ありがとう!」
ポプリは笑顔でお礼をし、
「では気球船殿、コレヲ」
ロコタは約束通りビー玉を差し出しました。
ビー玉を受け取った気球船はなんとも言えない少し切ない表情で去って行きました。
「あんなに欲しがってたのに
あんまり嬉しそうじゃなかったね。
気球さん」
「そういえばそうですね〜、なぜデショウ」
二人は少し不思議に思いましたが…
「そうだっ、そんなことよりコロタン、
橋の上にまだあの男の子見える?」
「ハッ、うっかりしてました!
ボールを返してあげなければいけまセンネ!」